時短、テレワークってホテルの現場でできる?
博多ホテルズで活躍する女性社員たち
取材・リクラボ 久保 亮吾 撮影・栗原 正
ホテル業界を襲う人手不足。この難問を地方から解決しようとしている企業がある。福岡に本社を置く博多ホテルズは東証プライム上場のいちご株式会社(2337)の子会社で、北海道、関東、関西、中国地方にもホテルを運営するチェーンだ。同社はなんと、支配人に対して営業成績に基づく評価基準を設定していない。つまりホテルが儲かるかどうかは経営責任であり、支配人責任ではない。支配人は“職場の環境整備”を最も重視して評価されるというのだ。同社で活躍する女性3人にお話を聞いてみた。
挑戦できる環境がある
淵上さんと三浦さんはもともと博多のプラザホテル天神で働かれていて、そこが買収されて博多ホテルズに転籍するという、つまりは自分から動いてこの会社に来たわけではないんですよね? 既存ホテルの経営が変わるというのは珍しいことではないですが、中で働いている皆さんはドキっとしたんじゃないですか?
淵上:衝撃でしたよね(笑)。私はプラザホテルに入社したばかりで突然の事業譲渡だったので、本当に驚きました。ただ、そこから色々な可能性が開けたので、結果としては博多ホテルズになって良かったと感じています。今は、私の場合は人財総務部で人財担当部長をしているのですが、留学した経験もホテルフロントの経験も書店で総務をやった経験も活かせています。
三浦:2019年のGW明けに譲渡の話を聞いて、7月には会社が変わっていたんです。最初は(博多ホテルズに対して)敵意むきだしでしたよね(笑)
でも、会社が変わって半年後にはアシスタントマネージャーになり、さらにその2カ月後にはマネージャーにしてもらったんです。そのあたりから経営陣とも多くの話をするようになり、ホテルの全体像も見られるようになって意識が変わりました。2020年には京都のホテルの開業準備室にも携わることになり、そういう経験もすごく貴重でした。前のままの会社ではあり得ない経験なので。
それにしても、すごいスピード出世ですね(笑)
三浦:はい。タイトルも上がったのですが、私はこの3年間でホテルマネージャー、支配人を経験するなど、自分のキャリアとしてもステップアップできて成長することができたと実感しています。この会社はやる気次第で新規開業や開発・リブランドなど、幅広い業務に携わることができる環境が整っています。
菊池さんはホテルのキャリアを積まれてきたわけですが地元に戻るタイミングでこちらに入社されていますね。博多ホテルズを選んだ理由は?
菊池:面白いことをやっている会社だな、というのが最初の印象でした。運営しているホテルもまだまだ今よりは少なかったのですが、高級ホテルではないのにチェックインの際にたくさんのスイーツのプレゼンテーションがあったり、インスタ映えするようなお茶の提供があったりと、単純なサービスだけをするホテルではない印象がありました。
実際に面接を受けると「当社はハウスキーピングを中心に考えています」と言われて、(それがホテル業だよな!)という納得感が私にはあったんです。やはりハウスが一番大事で、そこから様々な仕事が紐づいている。そういうホテルで自分の能力を高めたいなと思いました。
博多ホテルズの評価の考え方で「優先順位は商品を作る人」というものがあります。つまり客室を作る清掃係と料理をつくる調理係が一番最優先に評価される。これにも私は共感しています。
そして菊池さんもすごい勢いでキャリアアップしている! 2020年3月にアシスタントマネージャーで入社して、9月にはザ・ワンファイブ福岡天神でマネージャーになり、翌年1月には支配人。現在は新しく運営するホテルの準備室支配人ですね。
菊池:経験がなくても、わからないことがあったら全部執行役員に聞くつもりでやっています(笑)。それからグループホテルにいる他の支配人にも電話で聞きまくることができるので助かっています。
ここは「経験を沢山積みたい、スキルアップしたい」と考えている方には、挑戦の機会が多いので、やりがいを感じることが出来る会社だと思いますよ。
支配人の評価基準に営業成績が含まれていないと聞いて驚いたのですが、本当ですか?
菊池:本当です。博多ホテルズが私たち支配人に求めてくることは3つです。
- 安全な職場環境をつくり維持する
- 毎日客室を100%販売できる状態にする
- 低離職率(スタッフをネガティブな理由で辞めさせない)
支配人はスタッフ1人ひとりと年に4回面談をします。ほとんど人生相談状態になるときもあるのですが(笑)。面談をして目標設定など細かくケアしています。私は特にスタッフのみんなと情報を共有することに力を注いでいます。良いチームをつくりたいので。
ホテルの働き方改革へ
三浦さんは産休・育休を取得されて今年の4月に復職されています。お休みは取りやすかったですか?
三浦:はい。もしホテルが譲渡されずに昔のままの運営会社に私が務めていたら、おそらく妊娠と同時に退職する判断をしていたと思います。そんな私がここではスムーズに産休・育休を取得でき、しかもCICという子育て中の母親にはありがたい部署で仕事ができています。
CIC(カスタマーインタラクティブセンター)とはどんな部門なのか詳しく教えてください。
三浦:現在運営中のホテルは全国に13軒なのですが、それらのホテルの主要な箇所にwebカメラがついていて、CICでモニターしています。チェックインも遠隔で可能ですし、なにか現場に問題があればこちらからサポートすることもできます。
CICのメインは福岡ですが、札幌・東京・京都・大阪・岡山・倉敷と各施設のフロントバックにはサテライトもあります。また、自宅からテレワークでこのシステムに入っているスタッフもおり、1人は東京の自宅から全国のホテルを見ています。
現在、CIC専属のスタッフは全国で8人ですが、ホテルの現場スタッフが研修をかねてCICに入ることも多く、この部署での仕事が可能なスタッフを数えればかなりの人数になります。もし、急な休みが出たりした場合にも代わりに入れる人が沢山いるということです。
淵上:CICには子育て中の女性が多くいます。時短でも在宅でも可能な仕事環境を作っています。急にお子さんが熱を出して在宅に切り替えることもあります。また、福岡のスタッフが東京に行って、東京でCIC業務にあたるということもできます。現地のホテルやその周囲の街を見ることはCICから遠隔でご案内する場合にも大事なことなので推奨しています。
博多ホテルズがこうした環境を作れる秘訣はなんでしょう?
淵上:博多ホテルズの社長や執行役員には「ホテルはこうあるべき」というホテルオペレーションの固定観念がないからだと思います。彼らはメガチェーンから宿泊特化型ホテルまで、幅広いカテゴリーでのマネジメント経験が豊富で、常に10年先のあるべき姿を見ていると感じています。リモートで各施設のフロント業務を行うなど、ホテルの常識だと思われているオペレーションを別の角度から見直すことで、ルールに囚われない新たな働き方を生み出しています。働く側にとっては時間や場所を柔軟に選択しやすく、会社にとっては人財の確保がしやすい、win-winな職場環境だと思っています。
また、スタッフが多国籍にわたっているので、お互いを尊重し理解しようとするグローバルな雰囲気があります。現在は300人強のスタッフがいて、そのうち2割が外国籍です。この環境で働きたい仲間をもっと増やしていきたいです。
(取材・2022年7月)