ポンパドールヘアのGMが挑む東京ライフスタイルのアイコンメズム東京 総支配人 生沼 久 氏
取材・リクラボ 久保亮吾 撮影・大崎 聡
東京の水辺にウォーターズ竹芝という新しい街が開発されている。劇場、商業施設、オフィス、そしてホテルによって構成されるこの街のブランドをリードする存在。それがメズム東京というホテル。このホテルを率いるのは、あのヘアスタイルでも有名な生沼久氏。
前々から聞きたかったんですが、生沼さんのヘアスタイルっていわゆる「リーゼント」ってことでいいんですか?(笑)
ちがうんですよ。「ポンパドール」が正解です(笑)。リーゼントっていうのは横髪をなでつけて後頭部でピッタリ左右から合わせる髪型のことで、僕みたいに前髪をアップさせるのはポンパドール。外国人にリーゼントって言っても通じないんですよ。
あ、そうなんですね。失礼しました(笑)。ずっとそのスタイルを貫いてるんですか? ホテルマンをスタートした時は注意されませんでした?
めちゃめちゃ注意されました(笑)。でも、僕はこれが正装だと思っているし、自分が一番自信を持って人前に出られるスタイル。この髪型にするのって毎朝15分くらいかかるんですけど、整髪している時間で仕事モードになれる。髪がキマれば気持ちもキマる。だからキマらない時は洗い直して最初からやり直すこともありますよ。
こういうこだわりが、僕らが準備しているメズム東京というホテルにも通じるところがあると思っています。自分のスタイルやこだわりを持って生きているセンスのある人たちが、「このホテルってイケてるね」とか「ここに来るとパワーが漲るよね」っていうホテルにしたいんですよ。
なるほど。では、そのメズム東京というホテルについて教えてください。
今回のホテルの大きなキーワードは「TOKYO WAVES —東京の波長—」としています。日本らしさとか東京らしさっていうものを表現しようとすると、ついつい古(いにしえ)の事物からヒントを得がちじゃないですか。しかし、現代の東京のカルチャーは世界でも最先端を走っている。メズム東京は常に変化する東京の“今”を表現していきたいんです。ゲストが足を運ぶたびに変化を感じるようなアーバンラグジュアリーホテルになります。
メズムという言葉はMESMERIZING(メズマライジング)から取っています。相手に魔法をかけて魅了するという意味の単語です。ここはゲストの五感のすべてを今の東京のカルチャーや空気感で魅了していくホテルです。だから、食事や空間はもちろん、スタッフのユニフォーム(ファッション)や音楽、ホテルの中の香りにまでこだわります。
例えば音楽は、BGMという考え方をやめてFGMにします。フォアグランドミュージックですね。なんとなく背景的に流れていて聞き流す音楽ではなく、きちんとゲストに音を届けます。だからスピーカーにもめちゃめちゃこだわってるし、選曲もすごくセンス高くやってるんですよ。
今回はジャパンクオリティの先頭を行くようなクリエイターの方々とたくさんのコラボを予定しています。ホテルとクリエイターのコラボって単発ではいくつもありますが、今回のプロジェクトのように深くパートナーシップを組んでの取り組みは少ないと思いますよ。
僕は外資ブランドのホテルで育ってきた人間ですが、外資ブランドのホテルの場合にはホテル自体のブランドがしっかり固まっていて、そこを中心にすべての物事が決まっていく。だから、新しいコラボを追加して、それを真ん中に据えて新規開業するっていうのは難しいんですよね。でも、メズム東京ではそれができるんです。
それが今回、生沼さんが日本ホテルという日系企業に行った最大の理由ですか。
その通りです。ラグジュアリーブランドをオリジナルで作るって、すごいことじゃないですか。猛烈に大変な仕事ですけど、自分のクリエイティビティをすべて投入してやり遂げたい仕事です。
外資でずっとやってきて、もちろんグローバルスタンダードっていうものを知ることはとても勉強になったんですけど、一方でグローバルスタンダードの中で、ローカル色を表現する難しさにも直面してきました。日本以外の他の国に建っているホテルと、ブランドが同じだからという理由で統一感を持つべきという制約がある時点でホテルとしては「唯一無二」にはなれませんよね。
今回、僕らは世界各地の独立系ホテルが加盟しているオートグラフ コレクションに仲間入りするわけですが、オートグラフの条件は「EXACTLY LIKE NOTHING ELSE(唯一無二)」であることなんです。メズム東京は間違いなく唯一無二になりますよ。
オペレーション部分で生沼さんがメズム東京でやりたいこととは。
僕の原点はウェスティンホテル東京のサービスエキスプレスという部門。あそこはゲストが電話一本で何でも頼めるチームでした。スタッフは宿泊の仕事も料飲の仕事もマスターしなければならず、勉強は大変だったけどゲストからは本当に喜ばれる部門だった。ベルボーイの仕事をしていてもポケットにはソムリエナイフが入っていたし、料理を部屋に運んでいるときも次の予約を承ることができた。
メズム東京も縦割りではない組織を作り、スタッフがゲストを満足させるためにやれることの範囲を制限しない動きをさせます。それぞれの部署は業務内容で分けるのではなく、ゲストとのタッチポイントで分ける。基本的にゲストの顔を見て仕事をする部門は1つにします。フロントもベルもレストランも同一部門ということになります。
そもそも、なんでフロントとベルを分ける必要があるのか昔から疑問だったんですよ。シェラトンでその2つを統合したんですけど、この統合作業がグローバルスタンダードの壁で想像以上に大変だった(笑)。でも、凄い熱量で本部を説得して間違いのないスキームを提案したら認められたし、セクショナリズムも消えてとても良かったですよ。
そんなメズム東京に求められる人材とは。
アンテナ高く、時代の変化の波にちゃんと乗っていける人。そして、自分のスタイルを持っている人ですね。
僕らはスタッフのことを「タレント」と呼びます。黒子に徹するようなホテルスタッフではなく、どんどん前に出るような人を求めています。スタッフがお客様から「ちょっと一緒に写真撮ってもいいですか?」って言われて、一緒に写真に収まるようなシーンができたら最高だと思っています。僕はよくお客様から言われますよ「一緒に写真とってください」って。外国人の方には「ヘイ! エルビス!」って呼び止められて(笑)。
僕はずっと音楽をやってきたんで、“言葉を超える力”っていうものの存在を意識するんですよね。音楽もそうだし、ファッションも“言葉を超える力”を持っている。何か1つの道を歩んできて、感性を磨いてきたような人が仲間入りしてくれたら嬉しいです。
これは対外的に宣伝する言葉ではありませんが、今回のホテルでは先ほど言ったTOKYO WAVESを体現するための3つのコアバリューを設けています。
・Conscious(意識的に変化を感じ)
・Fluidity(流動的に受け入れ)
・Influential(影響力を持って体現する)
の3つです。
意味するところは、タレント全員が今の東京のトレンドを意識・察知し、その流動するトレンドの変化を受け入れ、その受け入れたものを影響力高くゲストに対して表現していくということです。
このことを続けた先には何があるか。それはこのホテルが東京のライフスタイルのアイコンになるということ。世界からやってきた感度の高い人たちが、「東京に行くならメズム東京に行かなきゃね」と言うようなホテルに成長していきたいと僕は思っています。
生沼さんは天性のリーダーシップを持っていますね。今回も生沼さんを追いかけて大勢の若手ホテルスタッフが仲間入りしています。生沼流リーダー論とは。
そんな、確固としたリーダー論とかはないです。でも、この世界に入ってからずっと思っていることは、常に逆ピラミッドのチームを作りたいということ。マネジメントが一番下にいて、タレントたちが上にいるチームですよね。
タレントたちが活躍するのをマネジメントが本気で支えるのが良い組織。心底、そういうチームにしたいと思っています。だって、逆ピラミッドじゃなきゃクリエイティブに動き続けるチームなんて作れない。ホテルはクリエイティブな仕事なんですから。
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