自分の仕事を愛する人が、真のラグジュアリーを創造する
JWマリオット・ホテル奈良 総支配人 クリストファー・クラーク氏
取材・リクラボ 久保亮吾 撮影・渡辺未知
日本初上陸のラグジュアリーブランドである「JWマリオット」とはどんなホテルなのか。世界各地のザ・リッツ・カールトン・ホテル&リゾートにて様々な上級管理職、総支配人を歴任し、JWマリオット・ホテル奈良に着任したクリストファー・クラーク総支配人(General manager, Christopher Clark)に話を聞いた。
マリオット・インターナショナルがスターウッドを吸収して以降、世界最大のホテルグループであることは誰もが知ることです。いっぽうでブランド数が30以上になり、ラグジュアリーブランドについてもザ・リッツ・カールトン、セントレジス、ラグジュアリーコレクション、エディションなど複数を擁しており、一般にはなかなか区別が難しくなっています。今回、日本初上陸のJWマリオットはどんなブランドなのかあらためて教えてください。
はい。JWはジョン・ウィラード、つまりマリオットの創設者名の頭文字ですね。しかし、このホテルは彼自身が作ったわけではなく、彼の息子が父をリスペクトしてホテルに命名したのです。マリオット・インターナショナルの中でも最高クラスのラグジュアリーブランドで、ゲストに対して真のラグジュアリーを提供することを目的とし、現在は30か国以上で95軒以上のJWマリオットホテルを展開しています。
ちなみに、JWマリオットの1号店はワシントンDCで開業しました。ワシントンはアメリカの首都。ですから日本の最初の都である奈良にこのホテルが初上陸するのは、私はとても親和性のあることだと感じています。
なるほど。JWではおもてなしに「JW Treatment」というキーワードを使いますね?
それは「JWマリオットならではのおもてなしの心」を表していますが、「JW Treatment」はお客様に対してだけのものではないということです。これはホテルがアソシエート(社員)に対してもそうあるべきという大事な言葉なのです。
少し踏み込んで話しますと創設者の言葉に戻ります。それは「自分の仕事を愛する人が、真のラグジュアリーを創造する(True luxury is created by people who love what they do.)」という言葉であり、これこそが「JW Treatment」の真髄です。
ラブという言葉をビジネスで使うのは少し違和感があるかもしれません。しかし、これは非常に大事なポイントで、お客様からもアソシエートからも“好き”でいてもらえるホテル、ではなくもっと上位の“愛される”ホテルであるためには、アソシエート自身が、自分の仕事を愛していることが何より大切である、という意味なのです。
自分のやっていることを愛している人から生み出されるものというのは素晴らしいクオリティであることは間違いありません。そうした本物の気持ちから生み出されるおもてなしが、お客様との信頼を育むはずだとは考えているのです。
JWにもクレドカードのようなものがあるのですか?
あります。「JWコミットメントカード」と呼んでいます。ザ・リッツカールトンで使われているクレドカードのシステムは非常に素晴らしい効果を発揮するため、JWでもこのシステムを採用しています。コミットメントカードにはJWならではのおもてなしの心を育むために大切なことが書かれています。私はザ・リッツ・カールトンで経歴を積み重ねましたので、JWコミットメントカードが成功に不可欠である事が良くわかります。このカードの表にはコミットメントそのもの、ブランドが大切にしていることが書かれ、裏には「基盤」となる考え方や、お客様や仲間、地域との「絆」、プロとして「意志」をもって行うことなど、JWのアソシエイトがコミットする言葉が書かれています。この言葉はJWマリオットの成功の要素・要因と言っていいでしょう。こうしたコミットメントは入社した時のオリエンテーションで学ぶだけだと、実際に活かしていくのは難しいかもしれません。デイリーリハーサル(毎朝のミーティングをJWでは“リハーサル”と呼びます)でカードの内容についてマネジャーとアソシエートたちが共に意見や経験談をシェアするするなど、たくさんの時間を使いながらそこに書かれた内容への理解を深めていきます。
奈良というロケーションについてクリスさん自身はどのような印象を持っていますか。奈良は日帰り滞在を楽しむ場所というイメージもありますが。
奈良はとても素晴らしい場所です。美しい自然と1300年の歴史。シルクロードの終着点だったとも言われる日本最古の都で、世界遺産の数は全国1位と、、国内有数の観光地であることは間違いありません。
JWマリオット・ホテル奈良は奈良県が進める、コンベンション施設やNHK奈良放送会館などを複合する大型再開発事業「大宮通り新ホテル・交流拠点事業」の核となるホテルとして位置付けられています。ここは平城宮跡や東大寺・古代天皇陵など、日本を代表する史跡へのアクセスに優れた場所です。奈良・平安時代の重要物品を納める東大寺の正倉院も有名ですが、今回、私たちは正倉院からインスピレーションをもらったレストランをホテル内に作りました。オープンキッチンダイニングと日本料理店の2つは、どちらも古都・奈良を感じていただけるテイストが入っています。
今回のホテルオープンにあたっては、知事と市長をはじめ、多くの市民の方々が大歓迎をしてくれました。奈良には、日帰りだけではとても見て回れないほどの、素晴らしい場所がまだまだたくさんあるので、行政の方々とも協力しながら、奈良の魅力を発信していきたいと思います。インバウンドも(対前年比で)28%増えています。彼らが宿泊するインターナショナル・ラグジュアリーホテルを必要として頂いていると感じますし、市民の皆様からも、オープンを楽しみにして頂いているというお声を本当によくお聞きします。とてもありがたいことですね。
顧客ターゲットには外国人旅行者を中心にと考えていますか?
JWマリオット・ホテル奈良は、外国のお客様にも、日本のお客様にもお愉しみいただけるホテルです。日本の方に奈良のことを話すと皆さん笑顔になります(笑)。皆さん修学旅行や遠足で来た記憶があるのですよね。数十年経って、大人になってからもう一度奈良に帰ってみると、新しい発見があると思いますよ。私たちはお待ちしています。
さて、JWマリオット・ホテル奈良が求める人材とは。
先に言っておきますと英語力は必ずしも問題ではありません。私は日本での経験も長いので、多くの方が語学の問題でこうしたインターナショナルホテルを敬遠してしまうことを知っています。しかし、語学は選考において問題ではありません。もちろん、フロントデスク等、限られたポジションでは英語は必須ですが、ホテルにはそれ以外にもたくさんの仕事があります。これまでアジアの5カ国でホテルの仕事をしてきましたが、言葉がバリアになったことはありません。
大切なことは情熱を持って仕事にとりくめる人であること。そして、素晴らしい笑顔を持っていることです。スキルはトレーニングすればよいのです。そのために、たくさんのプログラムを用意しています。語学のトレーニングが必要であれば、そのための機会はちゃんと提供します。
JWは今回日本に初めて誕生します。この新しいブランドを共に育ててくれる気持ちのある方、そしてご自身もJWと一緒に成長できる方の仲間入りを待っています。
幸いなことに管理職のメンバーにはすでに素晴らしい人材が着任してくれています。今、人材不足が課題になっていることは私も理解していますが、情熱とホスピタリティのある方なら、JWでは思う存分自分の可能性を開花してもらえると思いますし、そのサポート体制も整えています。
人材不足への対処は。
重要なことは“我々が何者か”を十分に理解してもらうことだと考えています。我々の哲学、つまり仕事においてアソシエート(社員)を最も大切にする会社であること、“アソシエート・ファースト”であることを知ってもらうことであろうと考えています。
マリオットグループが世界最大のホテルグループに成長できた理由の一つが、創業者のジョン・ウィラード・マリオットが、まず何よりアソシエートのことを大切に想い、優先してきたことにあります。マリオットグループの中で、唯一、彼の名前から名付けられたこのブランドには、アソシエートを大切にする哲学が根付いています。それがJWなのです。
美しく仕上がった各人それぞれのユニフォームがボタン1つで出てくる新しいシステムを導入したり、日当たりの良い2階に従業員食堂をつくったり、アソシエートたちがリラックスしてテレビを見たりゲームのできるレクリエーションルームを作ったり、心地よいソファを設置したりと、環境も整えます。
しかし、何より大事なことは“仲間意識”でしょう。「私たちは仲間なんだ」という気持ちをすべてのアソシエートが持つことのできるホテルを作っていきます。
このホテルは奈良で圧倒的ナンバーワンのホテル候補として期待頂いています。しかし、私はそれだけでなく日本でナンバーワンのホテルだと言われたい。「そんなに凄いホテルが奈良にあるの!?では奈良に行こう!」と皆さんが言うホテルにJWマリオット・ホテル奈良を育てていきます。