支配人は空気を変える魔術師lyf統括支配人 井上絵梨 氏
取材・リクラボ 久保亮吾 撮影・大崎 聡
こういう褒め方自体が嫌われてしまうかもしれないが、女性で子育て中のママさんで、ホテルの支配人をやってのけるというのは並大抵ではないと思う。めちゃくちゃエネルギッシュで、部下からも慕われている女性支配人を見つけたので紹介したい。lyf(ライフ)銀座東京のlyfチャンピオン、井上絵梨さんである。ライフでは支配人のことをlyfチャンピオン。オペレーションスタッフはlyfガードと呼ぶ。すでにこのあたりからおもしろそうな気配がする・・・。とにかく、この人は自分のホテルを楽しんでいる支配人だ!
コリビングという考え方とは
lyf のブランドは福岡の天神に次いで日本国内では2軒目ですね。「コリビングホテル」というコンセプトも耳に新しいと思っています。ブランドコンセプト的なところから教えてもらえますか。
lyf2019年にシンガポールの1号店ができたばかりなので、とても若くて新しいホテルブランドです。ライフのスペルはLIFEではなくlyf。これはLive Your Freedom
の頭文字で「自由に自分の人生を謳歌しましょう!」という気持ちを持っている人たちのためのホテルなんです。
“コリビング”という言葉は、まだ日本では浸透していないですよね。「働く」と「暮らす」が融合する場所という定義なんですが、lyfの場合はそこにさらに、「遊び」の要素を取り入れています。
たしかに。lyf 天神も、とってもポップで楽しそうなホテルでした。
ありがとうございます!めちゃくちゃ楽しいホテルなんですよ。遊び心満載!(笑)
lyfの考え方はこうです。たとえばホテル全体を「家」だと考えると、ゲストルームが寝室、ゲスト同士でシェアして使っていただく共用スペースがリビングルームのような感覚です。
ですからlyfでは各ゲストルームは少し小さめ。代わりに共用スペースの設備を充実させています。この共用スペースのことを私たちは「CONNECT(コネクト)」と呼んでいて、まさにゲスト同士のつながりができるような空間です。
CONNECT以外にもlyf独特の呼び方があって、
「SAY HI(セイ ハイ)」 : フロントカウンターのこと
「BOND(ボンド)」 : キッチンのこと
「WASH & HANG(ウォッシュ&ハング)」 : ランドリールームのこと
「BURN(バーン)」ジムのこと
となります(笑)。
買ってきた食べ物をBONDで調理しながら、お互いに分け合ったり、WASH &
HANGに洗濯をしに来た人がアイロンがけしている人に「こんにちわー」と声をかけたりして仲良くなったり、そんなことで旅する人たちがワイワイとCONNECTするわけです。
宿泊者以外の方もドリンクやお茶を一杯買っていただければ、コワーキング機能もあるCONNECTを使えますので、地元の人と旅人がコネクトする場であることも狙っています。
よく、シェアハウスとコリビングの違いを聞かれるのですが、シェアハウスではプライベートな空間が犠牲になってしまうところがありますよね。コリビングは共用スペースでつながりの場を作りながらも、個人の空間はちゃんと持っているというイメージです。
23歳でホテルの総支配人を目指す
井上さんの支配人感というか、どんなことを目指しているのかを今日は聞きたかったんですよね
私のホテリエとしてのキャリアは中国のインターコンチネンタルホテル浦東上海から始まったのですが、そこで出会った総支配人が本当に素晴らしい方だったんです。
毎朝スタッフ全員の名前を呼びながら声をかけて、「元気? 体調どう? 日本は恋しくなってない?」なんて優しく接してくれて、彼が現れると周囲の空気がパっと明るくなる。そんな方でした。
「こんな素敵な人がいるんだ!よし、私もああなろう!」と、そこからホテルの総支配人を目指し始めました。23歳の時でした。
それで39歳で本当に支配人になってしまうんだからすごい! 今の若手ホテリエのために、少しキャリアステップを開示してください
スタートはゲストリレーションズ。接客も大好きなのですが、接客の仕事だけだとどうしても自分の仕事の成果が見えにくいと感じていて。私は数字に追いつめられるのがけっこう好きなタイプなんで(笑)、別のホテルでセールスの仕事を見つけて転職し、そこからセールスでキャリアアップしました。数字と戦いまくる毎日。
ただ、セールスのスキルだけだと総支配人にはなれないと考えて、マーケティングを独学で勉強。実務の中でもマーケティングの知識を使えそうな仕事を見つけてはトライしてだんだん身につけていきました。
前職ではセールス&マーケティング部長でした。でも、福岡で総支配人になってからのほうがマーケティングスキルは重要でしたね。
lyfはまだまだこれからのブランドで、その魅力を言語化・見える化して世間に伝えていくのが、今はとっても重要なことなんです。
トップの言葉で発する重要性とパワーも感じていて、支配人になってからのマーケティングの仕事はめちゃめちゃ楽しいです。
スタッフの人生サポートします!
スタッフの皆さん、つまりlyfではlyfガードと呼ぶわけですが、井上さんがチーム創りで心がけていることは何でしょうか。
福岡でも言い続けたことなのですが、支配人は単なる「役割」にすぎないと思いながらlyfガードのみんなとは接してきました。ホテル全体に関わるような大きな決断をしたり、スタッフのみんなの教育に責任を持ったり、それらはすべて支配人の役割として当たり前にやることなので、自分が上に立っているとか、ましてやえらい人間であるという意識はまったくないです。
タイトルで呼ぶ文化も嫌いで、「井上支配人!」なんて呼ばれたら、めちゃめちゃ気持ち悪い(笑)。
そもそもlyfはファーストネームで呼ぶ文化です。みんな、私のことは「エリさん」と呼ぶ。「井上さん」って呼ばれたら、気がつかないかも(笑)。
井上さんが考える支配人の「役割」の中で最重要事項とは。
2つあります。1つは当然ですが、ホテルとしてのビジネスを成功させること。目標の利益を出すことですね。
もう1つは、共に働くメンバーが今後もいい人生を歩けるような武器を身につけられる環境を創ること。
せっかく一緒に働くわけですから、みんなが将来どこに行っても通用するようなポータブルスキルを持ってもらいたいと思っています。ホテルの仕事って、自分の管轄するオペレーションのことだけを見ていると、とても視野が狭くなってしまいますよね。そこでホテル運営全体のことを考えてもらったり、セールス、マーケティング、レベニューマネジメントやレポートの読み込み方などを教えたり、私が授けられるあらゆるスキルを福岡では1年半かけて伝えてきました。
「スタッフの人生サポートします!」
というのが私の主張。少し未来の大きな話をするならば、日本でホテルの総支配人を育成していくような仕事をしてみたいです。
さて、そんなlyfチャンピオン井上さんが銀座で新しい挑戦をするわけですが、どんなメンバーに集まってほしいですか。
「チャレンジしよう!」という気持ちのある人。これに尽きます。その気持ちさえあれば、経験はいらないと思っています。
経験もスキルも、さらに言えばlyfらしい雰囲気すら、後からでも身につけることは可能です。でも根本の部分から芽生えている「チャレンジしよう!」という気持ちだけは後から植え付けることができないんです。
福岡のlyfで新卒スタッフを採用したことがあります。最初、彼女は英語も含めてスキル的にまっさらな状態でした。とても真面目で弱気なところがあり、個人的にもとても気にかけていました。でも、彼女はチャレンジする強い気持ちを持っている人でした。それさえあれば、こちらは何でも手助けします。「あれをやってみよう!これをやってみよう!」と、いろんなことにチャレンジして、失敗しての繰り返し(笑)
そんな彼女は2年間でめちゃくちゃ成長して今や福岡のエースメンバーです。海外ゲストとしっかりコミュニケーションが取れるほど、英語も上達しました。
銀座でも、一緒に働く仲間の人生をサポートできるよう、スキルや知識の共有をどんどんやっていきます。ぜひ、一緒に働きましょう!